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栄養コラム

ぶり

No.230

2023年2月1日

管理栄養士 瀬谷理絵

刺身や寿司の定番ともいえる「ぶり」。
今では養殖によって一年中食べることができますが、ぶりの美味しい時期は冬から春と言われています。特にこの時期にとれる「寒ぶり」は、丸々と太って脂をたっぷりため込み、美味しさは格別です。
また、ぶりは成長とともに名前を変える魚「出世魚(しゅっせうお)」の代表で、お正月やお祝い事、贈答にも用いられています。今月はそんな縁起物の「ぶり」をご紹介します。


ぶりは「出生魚」

ぶりはスズキ目アジ科に属する温帯性の回遊魚で、日本列島の沿岸から東シナ海にかけて生息し、日本近海の固有種といえる魚です。寿命は7~8年と言われており、成長すると体長は1mを超え、8kg程度になります。ぶりは成長が早いのも特徴で、養殖では稚魚から育てて約1年半後には4kgほどの出荷できるサイズになるそうです。
また、ぶりは成長に伴い呼び方が変わる代表的な「出世魚」として知られていますが、地域によって呼び名が異なります。
<例>
関東:わかし→いなだ→わらさ→ぶり
関西:もじゃこ→わかな→はまち→めじろ→ぶり
他にも北陸、山陰、九州で呼び方が変わり、これだけ様々な呼び名がある魚もそうありません。また、養殖ぶりを天然ぶりと区別して「はまち」と呼ぶケースもあります。

名前が変わることがなぜ「出世」になるかについては、明治の戸籍制度が施行されるまで続いていた、武士や学者の風習に関係があります。
当時、今の成人にあたる「元服」を迎えると、名前を幼名から大人の名前に改め、着るものも替えて社会の仲間入りをすることをお祝いしました。
また、出世(地位が上がる、世間に名が知られる身分になる)の折々で、身分に応じた改名をする風習もありました。そこから、名が変わる魚は「出世魚」と呼ばれて縁起物とされ、お正月のおせち料理やお祝いの贈り物としても使われるようになったといわれています。


ぶりの栄養

① DHA、EPA

ぶりは脂質が多い魚ですが、この脂は人の体の健康を維持するために必要な栄養で、さらに体内では合成されない脂質であることから、食事で摂取する必要があります。特にぶりにはDHA
(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富に含まれています。
DHAは脳の組織にとても多く存在し、脳が発達する子どもの時期の重要な栄養素として、また
記憶力向上や認知症の予防や改善への効果が期待されています。
EPAは血中のHDL(善玉)コレステロールを増やし、血栓の発生を抑え、動脈硬化や脳梗塞、
心筋梗塞などの予防に役立ちます。

② ビタミンE

ぶりに多く含まれている①の脂質は非常に酸化されやすいため、抗酸化作用のある栄養素と合わせて摂る必要があります。ぶりには酸化されやすい脂質が多いことに加えて、抗酸化作用の高い「ビタミンE」が多く含まれていることもとても優れている点です。
ビタミンEは体内の脂質が酸化されることを防ぎ、体を構成している細胞一つ一つの細胞膜を健全に保つなどの働きから「若返りのビタミン」とも呼ばれています。その他、血流を良くし血圧の安定にも役立ちます。

③ ビタミンD

ビタミンDはカルシウムの吸収を促進し、体内でカルシウムが有効に利用されるのを助ける働きがあります。そのため骨の成長や健康な骨の維持に欠かせないビタミンです。
他にも、体内に侵入したウィルスや細菌などに対する免疫を高める効果も期待されています。
上記の栄養①~③について、ぶりとカロリー・脂質がほぼ同じ程度の「さば」と比較します。

<100gあたりの栄養成分>

八訂:日本食品標準成分表2020年度版 参照

さばもこの時期に脂がのって美味しくなりますが、DHA・EPA・ビタミンE・ビタミンDの比較では、ぶりに軍配があがります。


美味しいぶりの見分け方(切り身の場合)

ぶりはこれから脂が多くのってますます美味しくなりますので、鮮度の良し悪しや、脂ののり
具合などを見分け、美味しくいただきましょう。

(1)皮に光沢があり、身にハリやツヤがある
新鮮なものは皮の色は光沢があり、身にハリやツヤ、透明感があります。切り口が切ったばかりのようにしっかりしているものを選びましょう。

(2)血合いの色が鮮やかな紅色
血合いは最も傷みやすいところです。新鮮なものほど血合いの色はきれいな赤い色をしていますが、時間がたつほど血合いが黒ずんできます。黒ずんでいると生臭さも目立ち、劣化も早いので注意です。

(3)脂ののりを見分ける
身と皮の間に半透明の白い脂の層があり皮が厚く見えるものや、身に霜降りのような白い
「さし」が入っているものは、脂がのっている状態です。

(4)皮の色で部位を見分ける
ぶりは三枚におろしたあと、半身を腹側と背中側に切り分けてから捌いていくので、皮つきの
切り身は皮の色で部位が判断できます。味のお好みや、調理法によって使い分けるのもおすすめ
です。
・深い緑色→背の部分
 脂が少なめで身がしまりあっさりした味わいで、身のうま味も感じられる。刺身では弾力
 のある食感が楽しめる
・白い色→腹の部分
 脂がのっていてこってりとした濃厚な味わい。やわらかく、とろっとした食感が楽しめる。


保存の下処理とポイント

切り身で売られているぶりは、調理も簡単で使い勝手が良いですが、もともと傷みやすい魚なので、購入したらなるべくその日のうちに食べきるようにしましょう。購入してきたままで保存すると、ぶりの表面についた水分やドリップの雑菌が繁殖し、臭みの原因になります。保存する場合は表面の水分を丁寧に拭いて、一切れずつラップに包んで保存しましょう。2日程度が冷蔵保存の目安です。
ただこれはあくまでも目安で、冷蔵庫の開閉回数が多かったり、庫内の詰め方によっては庫内温度が変化し、劣化が進んでしまいますので、すぐに使わないようなら冷凍保存がおすすめです。2,3週間程度は保存可能です。

<冷凍保存方法>
1.バットに並べ、両面に塩少々をまんべんなくふり、冷蔵庫に入れて10分ほど置く
2.冷蔵庫から取り出し、表面にでてきた水分をペーパータオルでやさしく拭きとる
3.一切れずつラップで包み、冷凍用保存袋に入れ、しっかり空気を抜いて袋の口を閉じ、冷凍庫
 へ入れる
*その際に、アルミやステンレスのトレイやバットの上に置いて冷凍すると、
 急速冷凍できます。急速冷凍することで、ぶりの風味や食感が保てます。
4.調理する際は、冷蔵庫に移して解凍し、表面に出てきた水分をペーパータオルで拭きとり、
 酒少々をふってから調理する
*短時間で解凍したい場合は、冷凍保存袋のまま氷水を張ったボウルに浸してください。

<おすすめ冷凍方法>
下味をつけて冷凍保存すると、臭みも出にくく、味がよくしみこみ、調理する際にもとても簡単です。以下ご紹介します。
何れも上記<冷凍保存方法>1,2の「下処理」までしっかり行ってください。

―照り焼き―
ぶり切り身 2切れ
醤油    大さじ2
みりん   大さじ2
酒     大さじ1
砂糖    小さじ1
生姜薄切り 1かけ分
1.冷凍用保存袋にすべての調味料と生姜薄切りを合わせる
2.1.に下処理したぶりを入れてよく揉みこみ、袋の口をとじて冷凍庫で冷凍する
3.調理する場合はぶりを解凍し、たれを切って袋から取り出し、フライパンに少しの油
(分量外)をひいて焦げないように両面を加熱する
4.ぶりに火が通ったら、フライパンにたれを加え煮立たせてぶりに絡ませ、照りが出てきたら
 できあがり

―ねぎ塩焼き―
ぶり切り身    2切れ
長ねぎみじん切り 1/3本(あるいは小ねぎみじん切り 5本)
酒        大さじ1
ごま油       小さじ1
塩        小さじ1/2
おろしにんにく  小さじ1
1.冷凍用保存袋にすべての調味料とねぎ、にんにくを合わせる
2.1.に下処理したぶりを入れてよく揉みこみ、袋の口をとじて冷凍庫で冷凍する
3.調理する場合はぶりを解凍し、フライパンに少しの油(分量外)をひき、蓋をして蒸し焼きに
 する
4.ぶりに火が通ったらできあがり


おすすめの食べ方

刺身で食べる
ぶりに多いDHAやEPAは酸化しやすく、加熱すると流れ出てしまいます。これらの健康効果を最大にとるためには、新鮮なうちに
生で食べることが最も効率的です。
例:お刺身、カルパッチョ など

煮汁と一緒に食べる
DHA、EPAは加熱すると流れ出てしまうので、煮汁も一緒に食べるものにすれば無駄なくとることができます。またぶりには水溶性の
ビタミンも多く含まれていますので、この点からも効率的な食べ方の一つです。
例:みそ汁、トマト煮込み など

カルシウムの多い食品と一緒に食べる
ぶりにはビタミンDが豊富に含まれているため、カルシウムを多く
含む食品と一緒に食べることでカルシウムの吸収率をアップする
ことができ、骨粗しょう症の予防として効果が期待できます。
例:乳製品…チーズをトッピングして蒸し焼きに
  青菜…小松菜やチンゲンサイと中華炒めに
  大豆製品…ぶりしゃぶで豆腐も一緒に加えて