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栄養コラム

腸活

No.229

2023年1月4日

管理栄養士 瀬谷理絵

あけましておめでとうございます。
今年の干支は「卯(うさぎ)」です。「飛躍」「向上」を願いたいですね。
さて、今年最初のコラムは、全身の健康に影響する「腸」に注目します。地球上に生物が誕生したときに最初に備わったのは、脳や心臓ではなく腸でした。今でもミミズやクラゲ、イソギンチャクなど脳をもたない生物がいますが、脳を持たずとも腸が脳の役割をカバーしています。腸はそれだけ生物にとって重要な臓器なのです。
今月はその大事な腸を整える「腸活」について、お伝えしていきたいと思います。


腸活とは

腸活とは、バランスの良い食事や適度な運動習慣によって、腸内環境を整えていくことを指します。腸の不調は体の不調ばかりでなく、メンタルにも影響を及ぼします。

<腸について>
口から入った食べ物は、食道を通って胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門と1つの管を通り、消化や体に必要な栄養・水分の吸収が行われ、体にとって有害なものや不要なものは排出されています。それだけでなく、腸には約1億個の神経細胞が存在し、この神経細胞を利用して全身の健康や美容などと密接に関係していることが分かっています。
腸は、主に小腸と大腸に分けられます。

小腸
長さ約6-7m。主な働きは「栄養の吸収」です。
様々な消化酵素が分泌され、食べたものを吸収できるレベルまで分解します。小腸の表面には“絨毛(じゅうもう)”とよばれる無数のひだがあり、吸収力を高めています。このひだを広げると小腸の表面積はテニスコート1面分(約200㎡)もあるといわれます。

大腸
長さ約1.5m。主な働きは「水分の吸収」です。
水分を吸収しながら糞便を固め、蠕動運動により内容物を移動、排出させます。大腸の運動は自律神経によって調整されているため、ストレスなどで自律神経のバランスが崩れると腸の動きに影響し、便秘や下痢の原因となります。


腸内細菌について

1. 腸内細菌の役割

腸内にはおよそ1,000種類、100兆個以上にも及ぶ細菌が生息しているといわれ、顕微鏡で腸内を覗くとお花畑(flora)のように見えることから「腸内フローラ(腸内細菌叢)」とも呼ばれています。
腸内細菌は大きく3種類に分けられます。

善玉菌
大腸の働きを良くする有機酸を作り、排便や水分吸収を促進し、大腸のバリア機能に関わる粘液の分泌を促します。また、ビタミンも産生します。
例:乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌、糖化菌

悪玉菌
腸内で腐敗物質などの有害物質を作り出し、便秘や下痢などお腹の調子を悪くします。肌荒れやアレルギーだけでなく、大病を引き起こす可能性もあります。
例:ウェルシュ菌、ブドウ球菌、大腸菌(有毒株)

日和見菌
腸や身体が健康な時は大人しく善玉菌が優勢になるように働き、腸内環境が悪くなると悪玉菌が優勢になるように働きます。腸内細菌の中では最も多い菌です。
例:バクテロイデス、大腸菌(無毒株)、レンサ球菌

これらの菌は互いに密接な関係を持ち、日々変化しバランスを取っています。3種類の菌の理想のバランスは「善玉菌2割:悪玉菌1割:日和見菌7割」とされ、善玉菌を悪玉菌よりも優勢にし、菌のバランスを保つことが腸内フローラを整えることにつながります。
また、腸内に多くの種類の菌が存在する「多様性」は、腸内フローラを整える重要なポイントにもなります。

2. 腸内フローラのバランスを崩す原因

■ 食生活
食物繊維が少ない食生活は悪玉菌の割合を増やします。また、肉や乳製品などの動物性食品や、高脂肪の食事に偏ることも悪玉菌が増える原因になります。

■ 便秘
便秘になると、便が腸内に長時間留まり悪玉菌が増殖します。便秘が続くと腸内環境が悪化し、腸内環境が悪化すると便秘が治りにくいという悪循環に陥ります。

■ 加齢
腸内フローラは年齢により変化します。赤ちゃんの腸内フローラはほぼビフィズス菌(約9割)ですが、成長するにつれて腸内は変化します。老年期に入ると加齢に伴う生理機能の低下や食事内容の変化により、ビフィズス菌が減り、ウェルシュ菌などの悪玉菌が増加し始めます。

引用:ビオフェルミン製薬株式会社 腸活ナビ
「腸内細菌の働きと腸内フローラが乱れる原因」

■ ストレス
腸には脳に次ぐ数の神経細胞が存在し、「第二の脳」ともいわれています。腸は独自の神経をもち、また脳との関係も『脳腸相関』と呼ばれ、
双方向の関係性があり、とても密接です。そのため脳に受けたストレスは
腸に反映されます。ストレスによって腸内フローラを調整している物質の
分泌量が減り、腸内環境が乱れることも最近の研究で明らかにされて
います。

他にも、不規則な生活や睡眠不足、運動不足、喫煙、薬なども腸内フローラのバランスを崩す原因といわれています。

3. 腸内環境のチェック方法

腸内環境が健康的な状態であるかを知るための方法の一つは、便を観察することです。
理想的な便は、黄色から黄色がかった褐色で、形はバナナ状または軟らかいソーセージ状で、するりと出ます。においもそれほど臭くありません。一方、悪玉菌が優勢な場合の便は、黒っぽい色できついにおいがします。ご自身でチェックしてみましょう。


腸活で期待される効果

腸活で腸内環境を整えることは、便通や肌トラブルの改善だけでなく、以下のような効果があり、健康に大きく関わります。

1. 免疫力アップ

口から肛門までつながっている消化管は、体の内側にありますが、管の空洞部分については外界と接していることから、実は体の外側といえます。そのため、その管は食べ物以外に口や鼻からウィルスや病原菌も取り込む危険に常にさらされています。これらの侵入をブロックするために、腸には体の免疫細胞の約7割が集まり、「腸管免疫」と呼ばれています。
胃酸で死ななかった病原菌は、腸の免疫細胞によって外敵と認識され、攻撃を受けて退治されます。その腸の免疫に大きく関わっているのが腸内細菌です。腸内環境を良くすることは、免疫を高める重要な要素となっています。

2. 肥満や生活習慣病の予防

近年の研究で、腸内フローラが肥満や生活習慣病の発症や予防と関わりがあることが明らかになっています。なかでも、善玉菌から作り出される「酸」の働きが注目されています。
大腸で発生した「酸」が血液中に取り込まれて全身の各組織に運ばれ、一定の濃度に達すると、脂肪細胞では脂肪の蓄積を抑えるようにしたり、交感神経ではエネルギー消費を増やすようにするなど、肥満や生活習慣病の予防につながることが期待されています。

3. 精神の安定

「幸せ」を感じる状態のとき、脳からは「セロトニン」が分泌されています。このセロトニンは脳と腸の両方から分泌されていますが、腸内環境が悪いと腸内に多く分泌され、脳への分泌が減ります。それによりイライラしやすくなったり、睡眠障害やうつ状態など、心のバランスが崩れることにつながります。
また、腸で作られるセロトニンは腸内フローラが関与しているため、腸内環境を整えることは精神の安定をもたらします。


おすすめの腸活方法

1. 起床時にコップ1杯の水を飲む

眠っている間は胃や腸などの消化管は休んでおり、朝目覚めた時もまだ休んでいる状態です。
そこで朝起きがけにコップ1杯(約200ml程度)の水を飲むと、空っぽの胃に水が入ることで腸が刺激され、腸の動きが活発になります。これは「胃結腸反射」というもので、腸の動きが活発になり、腸の中に溜まっている便を送り出しやすくします。寒くて水が飲みづらいときは、白湯でも構いません。朝のコップ1杯の水で胃腸のリズムを整えましょう。

2. 善玉菌を増やす食生活をする

① 善玉菌が多く含まれる食品を摂取する(プロバイオティクス)
乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌・麹菌・酢酸菌などの善玉菌は、主に発酵食品から摂取することができます。発酵食品が多い食事は、腸内細菌の種類の多様性を高めることも報告されています。ただ、食品から摂っても、これらの菌は腸に定着されないため、毎日継続的に摂取していくことが勧められます。

<善玉菌が多い食品の例>
乳製品(ヨーグルト・チーズ・乳酸菌飲料)、納豆、キムチ、ぬか漬け、甘酒、味噌、醤油、お酢

② 善玉菌を増やす作用のある食品を摂取する(プレバイオティクス)
腸内に存在している善玉菌のえさとなる食品を摂取することで、善玉菌を増やすことができ
ます。その代表的な食品は、「オリゴ糖」と「食物繊維」です。これらの食品によって、
善玉菌から生成された酸が有害な菌の増殖を抑えます。
また、食物繊維は小腸で消化・吸収されずに大腸まで達し、おなかの調子を整えます。

<オリゴ糖が多い食品の例>
豆類(大豆など)、ごぼう、玉ねぎ、ねぎ、にんにく、バナナ、
アスパラガス

<食物繊維が多い食品の例>
全粒穀物(玄米・大麦・ライ麦など)、野菜、果物、海藻類、
きのこ類、豆類(大豆など)

3. 腸を刺激する運動をする

軽い運動をすると、便の大腸の通過時間が短くなるという報告があります。便の滞留を短くすることで悪玉菌の増加を防ぎます。
また、運動習慣は善玉菌の酪酸菌が増え、運動習慣をやめると酪酸菌が減少することも報告されています。気持ちがよいと思える適度な運動は自律神経にも良い影響を与え、腸の動きを促進し、特にお腹周りの筋肉を使うと腸の蠕動運動が刺激されます。
さらに、ウォーキングなどの有酸素運動は、腸内細菌の多様性を高め、大腸がんリスクの軽減に繋がることが明らかになっています。

例:ウォーキング、ストレッチ、体操、スクワット  など