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栄養コラム

味噌汁

No.227

2022年11月1日

管理栄養士 瀬谷理絵

昔ながらの日本の献立スタイルに「一汁三菜(いちじゅうさんさい)」という言葉があります。「一汁三菜」とは、主食となるご飯に、「汁物」と「おかず3点(主菜と副菜2点)」を組み合わせた献立のことを指します。この組み合わせで食事を揃えると、体を動かすためのエネルギー源や体をつくるたんぱく質、その他ビタミンやミネラル類など毎日必要な栄養をバランスよくとることができます。
今回はそのうちの「汁物」、日本人のソウルフードともいえる「味噌汁」についてとりあげたいと思います。


味噌汁の歴史

味噌は平安時代では寺院や貴族階級に珍重される貴重な食品で、今のように料理をするときに使うのではなく、食べ物につけるなどしてご飯のお供として食べられていました。
味噌を汁物に入れて食するようになったのは鎌倉時代で、中国からきた僧の影響ですり鉢が使われるようになり、大豆の形が残っていた「粒味噌」をすりつぶした「すりみそ」がつくられ、これが水に溶けやすかったことから汁物に利用されるようになりました。戦の多かったこの時代の武士の食事は、ご飯をメインに、汁物と干物や香の物などを合わせた「一汁一菜(イメージ:右写真)」が基本の食事スタイルでした。今と違って「おかず」が少ない時代に、味噌汁は重要な栄養の補給源となっていたようです。
時代が変わり室町時代に入ると、大豆の生産量も増え、味噌の自家醸造も始まり、味噌汁は庶民の食卓に広まっていきました。味噌汁をはじめとした今に伝わる様々な味噌料理もこの時代につくられたようです。


「おみおつけ」とは

「おみおつけ」という言葉を聞いたことがある方はどの程度いらっしゃるでしょうか。現在あまり使われていないかもしれません。これは味噌汁を丁寧に表現した言葉です。おみおつけの由来は諸説ありますが、そのうちのひとつに、室町時代の宮中に仕える女性たちの間で、本膳のご飯に並べて付ける汁物を「(御付け(おつけ)」と呼んでおり、それをさらに丁寧に表現し「御御(おみ)」がついたという説があります。「御御」は「御御足(おみあし)」や「御御酒(おみき、後の御神酒)」のように、御を重ねて丁寧な表現をしたケースで、「御御」でひとつの接頭語として使われたようです。


味噌汁のよいところ

①ご飯との相性

古くから日本人はお米を主食にしてきました。お米には体を動かすエネルギー源となる糖質が多く含まれていますが、他にも体づくりの栄養となるたんぱく質も含まれています。たんぱく質はアミノ酸で構成されており、なかでも「必須アミノ酸」をバランスよくとることが体づくりには必要なのですが、実はお米には足りない必須アミノ酸があり、これをちょうどうまくカバーできるのが「味噌」です。また、味噌にも足りない必須アミノ酸があり、これをお米がカバーできるという、まさにお米と味噌はとても相性のよい組み合わせなのです。

②味噌の栄養パワー

具は別としても、味噌汁で「味噌」の栄養がとれるところがとてもよい点です。味噌の主原料の大豆は“畑の肉”といわれ、良質なたんぱく質が多いうえに、味噌にすることで発酵によって、アミノ酸やビタミンが多量につくられるため、味噌は栄養的にとても優れた食品です。
味噌汁とすまし汁で比較すると、味噌が入るだけでたんぱく質やビタミン・ミネラル・食物繊維を手軽に補うことができることが分かります。
       「豆腐とわかめの味噌汁」と「豆腐とわかめのすまし汁」の栄養量
          (八訂:日本食品標準成分表2020年度版 参照)
          *ビタミンB群:ビタミンB1・B2・B6・B12を合算

味噌には他にもイソフラボンやレシチン、コリン、サポニンなどの健康成分が多く含まれます。

③様々な具を合わせて栄養価アップ

味噌は色々な食材と合うので、味噌汁に入れる具となる食材もとても多くあります。これによって味噌の栄養に加えて栄養価がさらにアップし、また味のバリエーションも広がることで毎日味を変えて楽しむことができます。
特に具として準備しなくても、冷蔵庫に入っているもの、保存してある乾物等、ご自宅にあるものを具にしてすぐに作ることができるのもよいところです。<たんぱく質アップ> 
・魚介類(魚のあら・貝類 など)、魚の加工品(つみれ・鯖の水煮缶 など)
・肉類(豚肉・鶏肉 など)、肉の加工品(ベーコン・ソーセージ など)
・卵
・豆腐、豆腐製品(油揚げ・厚揚げ・凍り豆腐 など)
・麩(小町麩・庄内麩・車麩 など)

<ビタミンアップ>
・緑黄色野菜(トマト・ほうれん草・小松菜・にんじん・かぼちゃ・オクラ など)
・淡色野菜(玉ねぎ・大根・れんこん・白菜・キャベツ・かぶ・白ねぎ・なす など)
 ※野菜はどんなものでもよいですが、色の濃い野菜(緑黄色野菜)と色の薄い
  野菜(淡色野菜)を組み合わせると、より多くの種類のビタミンを効率よく
  摂取することができます。

<食物繊維アップ>
・きのこ(椎茸・しめじ・舞茸・えのき など)
・海藻(わかめ・のり・あおさ・おごのり など)
・芋(じゃが芋・里芋・長芋・さつま芋 など)
・こんにゃく

④1日に摂りたい野菜量の約3割がとれる

厚生労働省が発表した21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」において、1日に必要な野菜摂取量は350gとされていますが、近年の日本人の食生活調査(*)によると、20歳以上の野菜摂取量の平均値は280.5g、さらに、20代では男性233g、女性212.1g、30代では男性258.9g、女性241.1gと、目標量の約6~7割しかとれていません。
そこで野菜摂取量アップに有効活用できるのが味噌汁です。味噌汁の具として野菜をたっぷり入れましょう。具沢山の味噌汁にすると、1杯で約100g以上の野菜をとることができます。
                    *厚生労働省令和元年年国民健康・栄養調査


味噌汁の塩分について

「味噌汁は塩分が多いのが気になる」という方もいらっしゃると思います。一般的な味噌汁の塩分は、お椀1杯で約1.2g程度です。日本人の食事摂取基準(*)では、成人1日あたり男性7.5g未満、女性では6.5g未満と設定されており、1食あたりにすると2~2.5g程度が目安なので、おかずの塩分が多くなければ、それほど気になる量ではありません。ただし、味噌汁の味が濃いめだったり、汁量が多いと1杯が2g以上になることもありますので、その場合は1日1杯程度までにしたほうがよいでしょう。
※高血圧や慢性腎臓病などで食塩制限がある場合は医師の指示に従ってください。
                  *日本人の食事摂取基準(2020年版)食塩目標量


味噌汁の“味変”のご紹介

1.豆乳(無調整豆乳)と合わせて
味噌と同じ材料の豆乳とは相性抜群です。豆乳の臭みが苦手という方も味噌と
合わせるとまろやかで優しい味になります。
豆乳とだしは1:1~2の割合で、味噌の量はいつもの半分でOKです。だしで具材を煮て具に火が通ったら豆乳を加え、沸騰する前に火を止めて味噌を入れてください。
※すりごまを加えると豆乳鍋風になります。
具の例:小松菜、白菜、椎茸、しめじ、あさり など

2.牛乳と合わせて
「乳和食」という言葉はご存知でしょうか。「乳和食」とは、 和食に牛乳を取り入れることで、調味料を減らしても牛乳のうまみとコクを活かして美味しく減塩ができると話題になっている調理法です。この「乳和食」はもちろん味噌汁にも活用できます。牛乳とだしは1:2の割合が目安で、味噌の量はいつもの半分でOKです。だしで具材を煮て柔らかくなったら牛乳を加え、沸騰する前に火を止めて味噌を
入れてください。
※味が薄いと感じたときは、粉チーズを入れると少ない塩分で調整できます。
具の例:豚肉、ベーコン、じゃが芋、にんじん、玉ねぎ など

3.ごま油を加えて
味噌汁にごま油を加えるとコクが出て減塩にもなります。ごま油で具を炒めて使うのもよいですし、お椀に盛り付けてから仕上げにごま油をかけるとごま油の香りがより引き立ちます。
具の例:豚肉、なす、白ねぎ、玉ねぎ、ほうれん草、えのき、油揚げ など