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栄養コラム

アイスクリーム

No.223

2022年7月1日

管理栄養士 瀬谷理絵

暑さが日に日に増して冷たいアイスクリームが食べたくなる季節になりました。2021年のアイスクリーム消費量は、コロナ禍における「巣ごもり需要」もあり、年間支出金額が過去最高になったそうです。デザートとして手に取る機会も多いのではないでしょうか。今回はアイスクリームについてご紹介します。

 


 世界のアイスクリームの歴史

■ 紀元前 アイスクリームの起源

古代のアイスクリームは、現在のシャーベットのようなもので、お菓子としてではなく、兵士の士気を鼓舞し肉体を元気づける「健康食品」として利用されていました。これらを純粋に嗜好品として広めたのは、紀元前のローマの英雄ジュリアス・シーザー(※右写真はジュリアス・シーザーの銅像)と言われています。

■ 11世紀頃 シャーベットが誕生

シリア地方へ侵攻した十字軍が、アラブ圏の氷や雪で冷やした甘い飲み物「シャルバータ」をヨーロッパに伝え、イタリアのシチリアで果物やナッツを使用して「ソルベット(シャーベットのイタリア語)」が作られました。その一つにシチリア名物の「カッサータ(※右写真)」があります。

■ 16世紀~18世紀 シャーベットからアイスクリームへの発展

その後、アイスクリームは、1530年代にイタリアからフランスへ、1620年代にフランスからイギリスへ伝わります。1686年、シチリア島出身の菓子職人がパリでアイスクリーム専門店を開店し、1720年に、現在のアイスクリームの原型となるホイップクリームを凍らせた「グラス・ア・ラ・シャンティ」や、卵を使った「フロマージュ・グラス」などを次々に生み出します。

■ 19世紀 アイスクリームが産業化

1851年、アメリカ・ボルチモアの牛乳屋ヤコブ・フッセルが、余ったクリームの処理に困り、アイスクリームの生産・販売を思いつきます。牛乳工場をアイスクリーム工場に切り替え、アイスクリームの産業化が始まりました。

 


 日本のアイスクリームの歴史

■ 江戸時代~明治 日本で初めてのアイスクリーム誕生

日本人が初めてアイスクリームを食べたのは、江戸時代末期のことと言われています。1860年、日米修好通商条約のために江戸幕府の使節団として派遣された、新見正興(別名:新見豊前守)、勝海舟、福沢諭吉らが、アメリカ上陸時の迎船内での晩餐で出されたアイスクリームの味に大変感銘を受けたという記録があるそうです。

その使節団の一人であった町田房蔵が、1869年(明治2年)6月に神奈川県横浜市の馬車道通りで「あいすくりん」を販売したのが、日本で初めてのアイスクリームと言われています(※)。原料は、牛乳・卵黄・砂糖とアイスクリームの基本的な材料でしたが、値段は現在の約8,000円に相当し、富裕層や外国人しか購入できず、お店は大赤字だったそうです。
※出島松造という人が町田にアイスクリームの製法を伝えたという一説もあります。

■ 明治~現在 アイスクリームが大衆へ広がる

1875年(明治8年)、東京の「開新堂」「風月堂」「函館館」がアイスクリームの販売を始め、1902年(明治35年)に東京銀座に「資生堂パーラー」がオープンしました。当時ドラックストアをしていた「資生堂薬局(現在の資生堂)」内に作られ、アイスクリームとクリームソーダの販売を始め人気を集めますが、庶民にはまだまだ贅沢品でした。

1920年(大正9年)にはアイスクリームの工業化が始まり、1923年(大正12年)に発売された「ブリックアイスクリーム」が人気となります。1935年(昭和10年)にはアイスクリームの定番商品、カップ入りアイスクリームが製造されますが、戦時中、アイスクリームの製造はすべて中止されてしまいます。戦後から1950年(昭和25年)頃まではアイスキャンデーが全盛でした。1952年(昭和27年)頃からアイススティック、カップアイスの製造が始まり、1956年(昭和31年)に1本10円の「アイスクリームバー」が発売され、広く国民に浸透していきました。

1964年(昭和39年)、東京アイスクリーム協会(現在の日本アイスクリーム協会)は、アイスクリームのシーズンインとなる5月の連休明けの5月9日に、福祉施設などへのアイスクリームの寄贈と、ヒルトンホテルで色々なアイスクリームを楽しむ「アイスクリームデー」というイベントを開催しました。以降、5月9日を「アイスクリームの日」と制定し、毎年この日を中心に全国各地で、福祉施設などへのアイスクリーム寄贈や、アイスクリームプレゼントなどのイベントを行い、アイスクリームのPR活動をおこなっています。
(参考:日本アイスクリーム協会 https://www.icecream.or.jp/

 


アイスクリームの分類

アイスクリームは乳成分の量によって4つに分類されます。パッケージに記載されていますので、購入する際に確認してみてください。

<アイスクリーム類の成分規格>

 アイスクリーム
乳固形分(※1)と乳脂肪分(※2)が最も多く含まれているものを指します。植物性油脂を添加することはできません。
 アイスミルク
牛乳と同じくらいの乳成分を含んでいるものを指します。植物性油脂が使用されることもあります。
 ラクトアイス
乳固形分は「アイスミルク」よりさらに少なく、植物性油脂が使用されることもあります。
 氷菓
乳固形分はほとんどなく、果汁などを凍らせたアイスキャンデーやかき氷などがあります。アイスクリーム類ではなく、食品衛生法の規定に基づく「食品、添加物等の規格基準」により規定されています。

※1 乳固形分:牛乳から水分を除いた全栄養分のことを指します。
※2 乳脂肪分:乳固形分から無脂乳固形分(たんぱく質、炭水化物、ビタミン・ミネラル類)を差し引いたものを指します。

 


アイスクリームの特長

牛乳を原料としているアイスクリームは、実は栄養価が高い食品です。多く含まれている栄養素と効果をまとめました。

① 乳糖

乳糖はほ乳類の乳に特有の糖質で、体の中で分解され素早くエネルギーになります。また、乳糖は腸の中でカルシウムや鉄分の吸収を促進したり、乳酸菌の発育を助け、腸内環境を整えるといわれています。

② 乳たんぱく質

牛乳に含まれるたんぱく質は、体内で合成することのできない9種類の必須アミノ酸を含む20種類のアミノ酸がバランスよく含まれる、良質なたんぱく質です。また、乳たんぱく質が消化される過程でできる「カゼインホスホペプチド(CPP)」が小腸でカルシウムの吸収を促進することも注目されています。

③ カルシウム

カルシウムは骨や歯を構成するだけでなく、ホルモンの分泌や神経伝達を正常に保つ働きがあります。100gで換算した場合、牛乳よりもカルシウム量が多い食品はたくさんありますが、1食分に換算すると他の食品よりもカルシウム含有量が多くなります。また、牛乳に含まれるカルシウムは、他の食品と比べて吸収率が40%と高く(小魚33%、野菜19%)アイスクリーム1個で1日に必要なカルシウムの約1/5を補うことができます。


(日本食品標準成分表 2020年度版(八訂)より)

 


アイスを食べる時のポイント

体にとって嬉しい栄養素がたくさん含まれているアイスクリームですが、より効果的な食べ方をご紹介します。

① 栄養補給として食べるなら「アイスクリーム」を選ぶ

「アイスミルク」や「ラクトアイス」は植物性油脂が添加され、砂糖や添加物の量が多い可能性があります。栄養価で考えると、牛乳の成分が最も多い「アイスクリーム」を選ぶのがおすすめです。濃厚ながらも冷たさでさっぱりと食べられるアイスクリームは、体調不良で食欲が低下している場合や、高齢者の低栄養予防としても利用できます。

② 間食や夕食後に食べるなら「氷菓」や小さいサイズのものを選ぶ

糖分の多いお菓子や飲み物を摂取すると、血糖値のコントロールや血中脂質のバランスを乱すことにつながります。特にお菓子に使われる砂糖は、血糖値を急上昇させる要因です。エネルギー・糖分の高いケーキやポテトチップス・ジュースよりも、ファミリーパックになっている小さなアイスクリームやエネルギーが低い氷菓を選びましょう。最近は糖質オフのものや通常よりもエネルギーが低いアイスも販売されていますので、一度手に取ってみてください。


(日本食品標準成分表 2020年度版(八訂)より)

③ 内臓を冷やさないように食べる

冷たいアイスクリームを食べると、内臓が急激に冷やされ、消化管の機能が低下して食欲が落ちたり、下痢・夏バテなどの原因となることがあります。食べた後には、温かいお茶などを飲むようにしましょう。
また、アイスクリームやかき氷を食べると“キーン”と頭痛がくることがあると思います。これは「アイスクリーム頭痛」といって、冷たいものが喉にある三叉神経を刺激し、その伝達信号を脳が痛みと勘違いしたり、冷たいものを食べた時に口腔内が冷え、体を温めるために脳に繋がる血管が膨張したりして起こる症状です。アイスクリーム頭痛の予防法は「ゆっくり食べること」です。血糖値の上昇を緩やかにすることにも繋がります。

 


おすすめのトッピング

そのままでも栄養価の高いアイスクリームですが、トッピングを工夫するとさらに美味しく、栄養価が高くなります。スーパーやコンビニで手軽に手に入るものばかりですので、ぜひお試しください。

ナッツ
アーモンドやカシューナッツ、クルミなどのナッツ類は、細胞の老化防止に働くビタミンEやコレステロールを下げる働きのある不飽和脂肪酸が多く含まれています。ただ、脂質が多くエネルギーは高いため、1回に5-6粒程度にし、塩分が添加されていないものを選びましょう。

きなこ
大豆から作られるきなこは、たんぱく質が豊富なだけでなく、動脈硬化の原因となる血栓を予防するポリフェノールや、腸内細菌のエサになるオリゴ糖が多く含まれています。きなこと相性の良い抹茶アイスにトッピングしても美味しく召し上がれます。

ミックスベリー
ブルーベリー・ラズベリー・いちごなどのフルーツは、コラーゲンの合成や鉄分の吸収、免疫力にも関わるビタミンCや、余分なナトリウムを排出するカリウムが多く含まれています。

はちみつ
はちみつの糖はミツバチの酵素で分解しているので消化吸収に負担がかからず、体内で素早くエネルギーに変わります。また、ビタミンやミネラル、アミノ酸、抗酸化作用のあるポリフェノールも含まれている、栄養価の高い食品です。
※乳児ボツリヌス症を引き起こす恐れがあるため、1歳未満のお子様には与えないでください。

オリーブオイル
オリーブオイルには、コレステロールを下げる働きのある不飽和脂肪酸や、血中コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化などを予防すると言われるポリフェノールが多く含まれています。オリーブオイルも他の油と同じエネルギーがあるため、小さじ1杯程度にしましょう。
アクセントに少量の塩・黒コショウをかけても美味しいです。