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栄養コラム

災害時の食品の備え

No.199

2020年7月1日

管理栄養士 田中希歩

7月に入ると日本に上陸する台風の数が増えてきますね。昨年2019年には大雨や台風での自然災害が日本各地で起こりました。自然災害が起こる前に、自分の身を守る様々な準備をしておくことは大切です。今回のコラムは「災害時の食品の備え」について紹介します。できるものから備えてみませんか?

    


●非常食

災害時を想定し備えておく食べ物のことを「非常食」といいます。レトルト食品やインスタント食品、乾パン、缶詰など様々な形態があります。
農林水産省は2014年に「緊急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド」を策定し、その中で、普段使いの食料品を多めに買い置きし、使ったらその分を買い足す備蓄術を推奨しています。 

●何をどれくらい揃えたらよいのか

非常食を備える目安としては、人数×3日分とされており、余裕があれば1週間分用意できると良いです。また、ガスや水道などのライフラインが停止する可能性があるため、調理不要で食べられる食材の備えをしておく必要があります。(参考:https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1609/spe1_02.html)


●主な備蓄食料品

①水
飲料水として、1人当たり1日1Lの 水が必要とされています。汗や排泄以外にも皮膚や呼吸から水分が失われており、汗をかいていない時でも水分をしっかりと補給する必要があります。調理などに使用する水を含め1人当たり1日3Lが目安となり、3日分にすると約6~9L必要となります。

②アルファ化米
炊飯したお米を、熱風で急速に乾燥し保存できる状態にしたもので、登山用品店やアウトドア用品店などで販売されている他、ネット通販でも購入することができます。洗米浸水の必要が無く、お湯や水を加えるだけで炊くことができます。また、『アレルギー食品27品目』(*)を使用していない商品として、炊き込みご飯類やおかゆも販売されています。避難所で提供される炊き出しには原材料表示のあるものが少ないため、食物アレルギーをもつ方が、安全に食事をとるための備蓄としてもおすすめです。
(*)アレルギー食品27品目とは・・・
発症数、重篤度から表示が義務付けられている7品目(エビ、カニ、小麦、そば、卵、乳、落花生)に加え、表示が推奨されている20品目(大豆、牛肉、鮭など)のことを指します。

③缶詰
ツナや煮魚、焼鳥などおかずになるものから、果物やデザートになるものなど、缶詰の種類は豊富です。また、おでん缶やラーメン缶などのユニークな商品もあります。缶詰は調理する必要がなく、缶切り不要で開けられるものが多いため、すぐに食べられる食品として災害時に活躍できます。おかず缶を5~6缶を目安に準備をしましょう。

④その他
パンやレトルト食品、乾物、豆腐、カップ麺等も非常食としておすすめです。パンは缶詰として販売されているものがあり、3~5年保存が可能です。レトルト食品は温める必要がありますが、パッキングされているので賞味期限も長く、常温での保管ができます。パンやレトルト食品、カップ麺は1~2個用意しておくと、非常食に飽きてきた時、気分転換になります。また、豆腐のなかでも、「充填豆腐」という水がはられていない豆腐は、賞味期限が1週間以上あるため、冷蔵庫に常備しているといざという時に役に立つ食品です。普段食べているお菓子なども用意しておくと、避難生活でのストレスや不安の軽減に繋がります。


●ローリングストック法

非常食は「気づいたら賞味期限が切れていた…。」ということが起こりがちなイメージですが、おすすめの備蓄方法に「ローリングストック法」というものがあります。この方法は、月に1回程度を目安に非常食を食べ、食べた分を買い足すという繰り返しを行うものです。
そのため、常に家庭に新しい非常食を備蓄することができ、賞味期限が1~2年のものでも非常食として扱うことができます。また、日常に非常食を食べる機会を設けることで、災害が起こった場合にも普段食べていたものが災害時の食卓に並ぶこととなり、安心して食事をとることに繋がります。


●災害時に起こりやすい健康問題

災害時は身の回りの環境が急変するため、過度なストレスや不安が続き、様々な健康問題がみられることがあります。特に注意したいのは血糖と血圧の悪化です。

・血糖

糖尿病をもつ人は、避難先での水分不足や過度なストレスによって血糖が急激に悪化する傾向があります。また、健康な人でも血糖が高くなる可能性があります。

<対策>
1)食事面では炭水化物の摂取に気をつけましょう。非常食の中心となるおにぎりや菓子パン等の炭水化物は、血糖を上昇しやすく血糖コントロールに影響を及ぼします。過度な摂取は避け、パンは菓子パンではなくロールパンや食パンなど砂糖の少ないものを選ぶと血糖の上昇を抑えることに繋がります。また、食事をゆっくりと食べることも大切です。時間をかけて食べることで体内への吸収速度が抑えられ、急激な血糖値の上昇を予防します。

2)水分不足によって脱水になると、血糖コントロール不良につながります。1日1L以上の摂取を目安とし、喉が渇いたタイミングで一気に補給するのではなく、こまめに摂取するタイミングを作りましょう。ただし、糖を多く含む清涼飲料水はたくさん飲みすぎると高血糖になり、意識障害に至ることもあるので、過度な摂取は控え、飲む際は少しずつ飲むようにするといった工夫が大切です。

・血圧

避難先での水分不足や過度なストレスは、血圧を上昇する要因となり、血圧上昇は心臓への負担となります。普段は正常値の人でも、災害時には血圧が上昇する兆候があるといわれ、実際に、阪神・淡路大震災、東日本大震災 など過去の被災時において、急性心筋梗塞や心不全などの発症の増加が報告されています。

<対策>
1)食事面ではできるだけ減塩に努めましょう。缶詰等の保存食品やカップ麺などには多くの塩分が含まれているため、汁を残すなどの工夫をしましょう。また、野菜にはナトリウムを排泄し、血液の流れを正常化する「カリウム」という成分が含まれているため、災害時には無塩のトマトジュースや野菜ジュースから摂取すると良いです。

2)水分不足は血液の流れを悪くする原因となります。1日1L以上の摂取を目安とし、喉が渇いたタイミングで一気に補給するのではなく、こまめに摂取するタイミングを作りましょう。


●おすすめレシピ

災害時を想定したレシピを日常で実践しておくと、被災した際にも慌てずに食事を用意することができます。今回は非常食として備蓄ができる食品を使い、災害時にも作りやすいレシピを紹介します。是非お試しください。

<おかず編> 切り干し大根とツナの和え物
【材料】 (2人分)  
・切り干し大根      15g(片手に乗るくらい)
・ツナ缶(水煮)     1缶
・塩昆布         2g(ひとつまみ)

・梅干し         1個
・白ごま         小スプーン1杯程度
・ポリ袋         1袋(混ぜる用)

【作り方】
①切り干し大根をキッチンばさみで2~3㎝程度に切り、ポリ袋に入れる。
②梅干しの種を取り、①に入れる。
③ツナ缶を汁ごと②に入れ、塩昆布を加えてよく揉み、20分程度おく。
④最後に白ごまを振り入れる。

 【ポイント】
乾物である切り干し大根は、ツナ缶の水分を利用して戻すことができ、節水にも繋がります。
また加熱工程もないため、電気やガスが止まった際でも作ることができます。

 

<おやつ編> みたらし団子風
【材料】(10個分) 
■団子
・白ご飯         200g(茶碗1杯程度)     
・片栗粉         大さじ1
■みたらし餡
・水           50ml(大さじ3強)
・砂糖          大さじ2
・醤油          大さじ1
・片栗粉         小さじ1

【作り方】
①温かいご飯に片栗粉を加え、ご飯をつぶすように練り混ぜる。
②①を1口大の大きさに丸め、成型する。
③鍋に沸騰したお湯を用意し、②を茹で、浮かんできたらお湯から引き上げる。
 串があれば串にさしておく。
④みたらし餡は材料すべてを鍋にいれ、とろみが出るまで混ぜる。
⑤③の上に④をかけ、完成。

【ポイント】
アレルギー食品27品目を使用せずに作ることができるおやつです。団子は片栗粉がなくても、よく練り混ぜることで成形することができます。白ご飯はアルファ化米でも代用ができ、また、みたらし餡はきな粉やあんこなどにアレンジするのもおすすめです。