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栄養コラム

昆布

No.194

2020年2月3日

管理栄養士 小山圭子

2020年「東京オリンピック・パラリンピック」まであと半年となりました。オリンピックやパラリンピックに向け、世界中から沢山の人が日本を訪れます。日本を訪れる楽しみのひとつが食事です。日本の伝統料理「和食」はユネスコの無形文化遺産の登録をきっかけに、日本だけでなく海外でも関心が高まっています。
今回は日本の食文化を支える大切な食材、昆布についてのお話です。


昆布の歴史と種類

(1)歴史

昆布は『よろこぶ』と言われ、慶事の縁起物としても良く使われます。昆布の歴史は古く、奈良時代の書物「続日本紀」に初めて登場し、715年蝦夷(現在の東北地方や北海道地方)の酋長が昆布を朝廷に献上したと記録されています。蝦夷地の開拓以来、昆布を食べる地域は時代とともに広がっていき、海上交通の発達と共に船を使って昆布が運ばれて行った道を昆布ロードといい、日本の食文化を広げた道ともいわれています。鎌倉時代中期以降、北海道の松前と本州の間を昆布の交易船が盛んに行き交い、室町時代に入ると、蝦夷地から越前国(福井県)の滋賀まで運ばれ、京都・大阪まで送られるようになりました。江戸時代に入ると、北前船(日本海を通り、北海道と大阪を結んだ商船)を使って下関・瀬戸内海を抜けて直接天下の台所・大阪へと運ばれました。その後、貿易の重要な品物としても九州から、琉球王国、清(中国)へと運ばれていきました。
昆布は、朝鮮半島や日本の沿岸に生育し、沿岸地域に暮らす人が古来より食べていたとされており、中国へは朝鮮との交易により運ばれ広がっていきました。関東へは、昆布ロードの到達が遅かったため昆布の消費が少ないとされています。

(一般社団法人 日本昆布協会「こんぶネット」昆布の歴史より引用)
(2020年1月28日)

(2)種類

天然の昆布は寒流の流れ込む海域で育つため、日本では北海道沿岸と、東北沿岸に生育しています。約9割は北海道産で、残りは青森県の津軽海峡から、宮城県の気仙沼や牡鹿半島にかけて生産されています。今では養殖の技術が進歩し、北海道以南の暖流地域でも生産ができるようになりました。神奈川県をはじめ、瀬戸内海や九州でも生産されています。

(1)真昆布
厚みと幅があり、上品な甘みで清澄なだしがとれます。主にだし昆布として利用されています。

(2)利尻昆布
真昆布に比べてやや硬めですが、透明で風味の良い高級だしがとれ、会席料理などによく使われます。

(3)羅臼昆布
別名「えながおにこんぶ」とも呼ばれ、茶褐色で、香りが良く濃厚でこくのある高級だしがとれます。主に、だし昆布として利用されます。

(4)三石昆布(日高昆布)
濃い緑色に黒みを帯びた形状で、柔らかくて煮えやすく味も良いので、色んな用途に使える昆布です。だしをとるだけでなく、昆布巻、佃煮、おでんなどによく使われます。

(5)がごめ昆布
表面に籠の編み目のような紋様があり、粘りが強く、ぬめり成分が多いのが特徴です。主に、とろろ昆布やおぼろ昆布に加工されます。

(3)昆布の加工品

(1)刻み昆布
干した昆布を塩水や酢水に浸けてから1~5㎜の細切りにし乾燥させたもので、炒め物や煮物に用います。

(2)削り昆布(とろろ昆布・おぼろ昆布)
甘酢に浸した乾燥昆布を何枚も重ねてプレスし、側面を機械で削り、薄く糸状にしたものが「とろろ昆布」、1枚の昆布の表面を職人の手で帯状に薄く削ったものを「おぼろ昆布」といいます。とろろ昆布は機械で削るので手ごろな価格ですが、おぼろ昆布は職人が丁寧に手で削るため高価です。とろろ昆布はお湯を注ぎ手軽に汁物などに、おぼろ昆布はばってら寿司や押し寿司に使われます。

(3)塩昆布
細切りや角切りの昆布を、水・醤油・みりん・砂糖などを合わせ長時間かけて煮て、最後に塩などをまぶしたもので、塩吹き昆布と呼ばれることもあります。ご飯に和えても、野菜に和えても美味しく食べられます。

(4)酢昆布
昆布を砂糖と酢を合わせた調味液に浸して熟成させたのちに乾燥させたもので、大正時代からあるお菓子です。

(5)昆布茶
乾燥した昆布を粉末状にして、調味料や食塩で味つけしたもので、お湯を注いでお茶として飲むだけでなく、料理の味付けとしても用いられます。


昆布の栄養について

昆布の加工品として食事に取り入れやすい形に加工されている「とろろ昆布(削り昆布)」についての栄養を、昆布と同じ海藻類の中でも使いやすい「カットわかめ」と比較しながらご紹介いたします。

(1)食物繊維

海藻類には食物繊維が豊富に含まれています。
食物繊維は便秘予防や腸内環境の改善、血糖値上昇の抑制、コレステロールの低下などの効果から、食事からとるべき目標量が決められています。
平成30年度の国民健康・栄養調査の結果によると、食物繊維摂取量は各世代目標量に届いておらず、特に若い世代での不足傾向が大きくなっています。
1食あたり男性では約2g(1.2~2.4g)、女性では約1.5g(0.4~2g)が目標量から不足しています。

※目標量:18歳以上(日本人の食事摂取基準(2015年版)より)

例えば、とろろ昆布の清汁(ひとつまみ5g)1杯の食物繊維量は、わかめの清汁(カットわかめ1g)の3倍、野菜サラダ小皿1杯の約2倍です。これは、1食あたりの目標量の不足分を男性なら約8割、女性なら満たす量です。手軽に使えるとろろ昆布は、汁物などに簡単に足すことができ、食物繊維量アップには大変使いやすい食材です。
(1食あたり)

(日本食品成分表2015年版(七訂)より)

海藻類にはねばり成分「フコイダン」と呼ばれる海藻独特の水溶性食物繊維が多く含まれています。この成分は、近年がん抑制効果や胃粘膜の修復、肝機能向上作用、免疫力強化作用などが期待されています。

(2)カリウム

カリウムは体内の余分な水分を排泄する働きがあり、高血圧予防やむくみの解消に良い成分です。
平成30年度の国民健康・栄養調査の結果を見ると、カリウムはどの世代でも目標量を満たしていません。1食あたり成人男性では約180㎎、女性では約100㎎不足しています。海藻類はカリウムが多く、特に昆布には豊富に含まれます。
例えば、普段の食事の汁物に、とろろ昆布をひとつまみ(5g)加えるだけで男女とも目標量の不足分を満たします。

 汁物1杯に加えた場合

(日本食品成分表2015年版(七訂)より)

(3)ヨウ素

ヨウ素はミネラルの一種で、甲状腺ホルモンの材料となり、基礎代謝を高め、体や知能の発育を促進する働きがあります。不足すると成長障害や体力低下を起こします。ヨウ素は、海藻類に豊富な栄養素で、海藻類の中では特に昆布に多く含まれています。ただ、ヨウ素は摂りすぎても甲状腺機能障害の原因となるので、甲状腺機能亢進症など甲状腺の疾患をお持ちの方で、ヨウ素摂取を制限されている方には注意が必要です。


調理のポイント

(1)だしの旨味成分

だしの旨味成分として、昆布の「グルタミン酸」、鰹節や煮干しの「イノシン酸」、椎茸の「グアニル酸」があります。
人の味覚は「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「旨味」の5つが基本味とされており、「旨味」は明治時代に昆布だしの美味しさを研究する過程で、日本人研究者の池田菊苗博士により発見されました。
旨味成分は単独でも美味しいのですが、異なる種類の旨味成分を組み合わせることで相乗効果によって、8倍旨味が強くなります。昆布でだしをとる際に、鰹節を合わせることが多いのですが、これは「グルタミン酸+イノシン酸」の相乗効果によって旨味が強くなるので、理にかなっているものです。

(2)昆布だしの取り方(合わせだし)

汁物や煮物に使うだしですが、簡単に美味しく取ることができます。昆布と鰹節の合わせだしの取り方をご紹介します。
【材料】[出来上がり量5カップ(1000ml)分]
・昆布・・・10g(7.5×10cm大2枚) [出来上がり量の1%] 
・鰹節(花かつお)・・・20g(約カップ2杯分) [出来上がり量の2%] 
・水・・・6.5カップ(1300ml) [出来上がり量の30%増し]

【取り方】
1.昆布は乾いた布巾で表面を軽く拭き、分量の水と一緒に鍋に入れ、10~30分おきます。
2.蓋はせずに弱火にかけ、沸騰直前(鍋の底からふつふつ泡が出てきたら)に昆布を取り出します。
 ※昆布は煮過ぎるとねばりで風味を損なうので、沸騰させないように注意しましょう。
3.2に鰹節を加え、沸騰したらすぐに火を止め、そのまま静かに1~2分おきます。
4.鰹節が自然に沈むまで待ってから、キッチンペーパーを敷いたザルで、3を濾します。鰹節は搾らずに、そのままおきましょう。
 ※鰹節を搾るとえぐみが出るので注意しましょう。

・だしはまとめて取って、製氷皿などで凍らせてキューブにしておくと便利です。煮物や麺類のつゆ、だししょうゆ(だしとしょうゆを同量で混ぜる)など、ちょっとしたことに使えて便利です。
冷凍しただしは、1ヶ月以内に使い切りましょう。
・昆布だしは、昆布を一晩クーラーポットなどでミネラルウォーターや水に浸け、冷蔵庫で寝かせる方法でも取ることができます。冷蔵庫に保存し、1週間以内に使い切りましょう。


おすすめレシピ

昆布には、旨味が多く含まれているので、調味料を控えても薄味で美味しく調理できます。料理の材料として加えやすいとろろ昆布をうまく使うことで、食物繊維やカリウム・ヨウ素などのミネラルをしっかり摂取することができます。今回は、そんなとろろ昆布を使ったシュウマイをご紹介します。シュウマイの皮にとろろ昆布を使うことで、普通のシュウマイに比べ、低カロリーで薄味でも美味しく召し上がれます。また、餡に豆腐を加えているので加熱してもふわふわの食感です。

●とろろ昆布のシュウマイ
【材料】(2人分:4cm大×8個)
・豚引き肉…100g
・木綿豆腐…100g
・玉葱…1/2個(100g)
・にんじん…1/3本(40g)
・椎茸…1枚
・とろろ昆布…1袋(20g)
・キャベツ・・・2枚

<合わせ調味料>
・片栗粉…大さじ1杯
・しょうゆ…小さじ1/2杯
・砂糖…小さじ1/2杯
・ごま油…小さじ1/2杯
・ポン酢・しょうゆ・・・お好みで

【作り方】
1.玉葱、にんじん、椎茸はみじん切りにします。これらを耐熱ボウルに入れ、電子レンジ600Wで2分程、軽く熱を通します。木綿豆腐は、軽く水切りをします。
2.豚ひき肉と手で崩した木綿豆腐をよく混ぜておきます。
3.ボウルに1と2、合わせ調味料を入れ、よく混ぜます。
4.3を8個に丸めます。
5.4にとろろ昆布をまぶします。
6.ざく切りのキャベツを蒸し器に敷き、キャベツの上に5を載せ、蒸し器で10分程蒸します。お皿に盛って出来上がりです。お好みで、ポン酢やしょうゆをかけてお召し上がりください。
 ※蒸し器がない場合は、5を耐熱皿に並べ、とろろ昆布に霧吹きで水を吹きかけラップをして、電子レンジ600Wで6~7分加熱します。

【アレンジ】
シュウマイの下に野菜を敷くと、一緒に蒸し野菜が出来上がります。キャベツ以外に、青梗菜や白菜でも美味しくいただけます。