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栄養コラム

牡蠣(かき)

No.192

2019年12月1日

管理栄養士 小山圭子

師走に入り今年も残すところあと1ヶ月となりました。寒くなるこの時期、家族や友人など親しい人と鍋を囲む機会も増えるのではないでしょうか。
冬のこの時期、美味しさを増す牡蠣は北海道から九州まで日本各地で獲れ、生でオードブルとして、鍋の主役として是非味わっていただきたい食材です。今回は、冬を代表する味覚の一つ、牡蠣についてのお話です。


牡蠣の種類

●真牡蠣
磯など浅瀬に生育する食用の真牡蠣はほとんどが養殖です。旬の時期は産卵期が関係しており、真牡蠣は初夏から夏にかけて一気に産卵し、その後は身が痩せてしまうため、栄養を蓄え始める10月から3月が旬とされています。旬の真牡蠣は身がしっかりして旨味を蓄え、ぷりっとした食感です

●岩牡蠣
海の深い場所で育つ岩牡蠣は天然物がほとんどです。岩牡蠣は少しずつ産卵するため、栄養を使い果たすことなく栄養が多い状態の5月から8月が旬となります。岩牡蠣は深海で育つので、冷たい水と敵から身を守るために大きく厚みがあります。


牡蠣の栄養

牡蠣は「海のミルク」とも呼ばれるほど栄養が豊富な食品です。積極的にとりたい栄養成分が多く含まれています。

(1)亜鉛

亜鉛は体の細胞の代謝に関わる酵素が働くのに必要で、酵素の成分の一つとなったり、酵素を活性化することで、各種酵素の働きをサポートしています。また、免疫力を保つのにも重要な栄養素の一つであるなど、体内で様々な役割を果たしていますが、特に味を感じる味蕾細胞を作るのに大きく関わっています。味蕾細胞は新陳代謝が活発なため、習慣的に亜鉛の摂取量が不足すると細胞の生まれ変わりが滞り味覚の低下に影響するといわれています。
亜鉛は、平成29年度国民健康・栄養調査の結果では、推奨量を満たしていない世代がほとんどで、日本人には不足しやすい栄養素と言えます。


  









(1日の亜鉛摂取量:平成29年度国民健康・栄養調査より)
(推奨量:日本人の食事摂取基準(2015年版)より)

牡蠣は貝類の中でも特に亜鉛の含有量が多いことが大きな特徴となっています。食品100gあたりで比べると、牡蠣にはあさりの約13倍、はまぐりの約8倍の亜鉛が含まれておりこれは成人男女の1日の推奨量を十分に満たす量となっています。

(食品100ℊあたり) 

(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)
(推奨量:日本人の食事摂取基準(2015年版)より)

(2)ミネラルの宝庫

牡蠣には、亜鉛以外にも数多くのミネラルを豊富に含んでいます。
中でも、血液中の赤血球を作る「鉄」、鉄を必要な場所に運び鉄の吸収や利用を促進する「銅」が多く含まれています。鉄や銅は造血作用があり、貧血予防に良いとされる栄養です。
牡蠣と同等量の鉄を含むほうれん草と比較すると、鉄は同じくらいでも銅はほうれん草の約8倍含んでいます。牡蠣は、貧血予防に必要な鉄と銅をともに摂ることができます。

(食品100gあたり)

(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)

他にも牡蠣にはカルシウムやマグネシウムが多く含まれます。
カルシウムは、骨の形成や骨密度の点から注目されることの多いミネラルですが、マグネシウムは一般的には注目される機会の少ないミネラルです。しかし、カルシウムとマグネシウムはお互いにバランスを保つことで骨の形成の他、筋収縮の制御や、血圧の調整などにも関わります。このカルシウムとマグネシウムのバランスの目安は「2:1」とされており、マグネシウムも合わせて日ごろから摂るようにすることが大切です。
牡蠣はカルシウムもマグネシウムも強化できます。カルシウム源の牛乳と比較すると、マグネシウムは約7倍も多く含まれます。

(食品100gあたり)

(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)

牡蠣は、全身の様々な機能に役立つミネラルをバランス良く含んでおり、効率よくとることができるので積極的に食事に取り入れましょう。

(3)疲労回復作用

牡蠣には、肝機能を強化するタウリンやグリコーゲンが豊富に含まれます。栄養ドリンクにもよく使われるタウリンは、乳酸が体に溜るのを抑え、疲労回復に効果的に働きます。また、肝機能の解毒作用を活発にし、グリコーゲンとともに肝機能を回復させる働きもあります。お酒を多く召し上がる方には、おつまみとしても牡蠣はおすすめです。


調理のポイント

生食用と加熱用

牡蠣には、「生食用」と「加熱用」の2種類があります。これは鮮度の違いではなく、生食用とは、保健所により決められたノロウィルスなど食中毒菌の汚染リスクが低い海域で獲れ、パック詰めする前の加工で生で食べられるようにされたものです。
生食用は滅菌処理・殺菌洗浄されており、手軽に使えて便利です。加熱用と比べると加工処理によってやや身が痩せていたり、少し水っぽい感じがします。加熱用の方は身が太っていて味が濃く美味しいといわれていますが、滅菌・殺菌されていませんのでしっかり火を通す必要があります。用途によって使い分けましょう。

下処理

臭みの原因となる汚れを効果的に落とす方法をご紹介します。
牡蛎は、鮮度を保つ・除菌・保存の面から、塩水で洗うのが良いとする報告(※1)があります。
一番簡単なのは、ざるを使って塩水で洗う「振り洗い」の方法です。
細部まできれいに汚れを落としたい方は 、大根おろしを使った方法がおすすめです。大根に含まれる酵素により、ぬめりを取り殺菌する効果があります(※2)
水気を切った牡蠣のむき身と大根おろしを入れ、全体がなじむように優しく混ぜ、大根おろしが「灰色」に変わってきたら塩水で洗います。洗いすぎると牡蠣に傷がついて旨味が逃げてしまうので「汚れを優しく落とす」のがポイントです。
他にも、大根おろしの代わりに片栗粉を混ぜ、汚れをなじませて汚れを落とす方法もあります。片栗粉に汚れがなじんだら塩水で優しく洗いましょう。
※1:出典:豊後孝江「カキの調理と衛生に関する効果的な洗浄方法の検討」(第1報)家政学雑誌 Vol.31 No.8 (1980)
※2:出典:江崎秀男・小野崎博通「大根おろしの殺菌効果について」椙山女学園大学研究論集 第22号(第1 部)(1991)

冷凍保存

牡蠣は前述の方法で下処理をし、キッチンペーパーなどでしっかり水気を取り除きます。次に、ラップを敷いたバットの上に少し間隔を空けて並べ、上からラップで覆って1時間程冷凍し、凍ったらラップを外し、保存袋に入れ冷凍庫で保存します。このようにすると、牡蠣を1個ずつバラバラに冷凍できるので、いつでも好きなだけ料理に使えて便利です。
また、冷凍牡蠣も販売されています。冷凍した牡蠣は1ヶ月くらいで使い切りましょう。
冷凍牡蠣はぬるま湯や流水を使って解凍します。この際、全て解凍してしまうと栄養成分が流れ出てしまうので、半解凍状態で調理に使いましょう。
また、一度冷凍した牡蠣は必ずよく加熱して食べましょう。

牡蠣を食べるときの注意点

牡蠣などの二枚貝は、生や十分に加熱しないで食べるとノロウィルスによる食中毒になる場合があります。ノロウィルスは85度以上、90秒間以上の加熱で死滅するので、十分加熱してから食べましょう。


おすすめレシピ

生でも火を通しても美味しい牡蠣は様々な調理に適しています。また、牡蠣には貧血予防効果のある鉄や銅だけでなく、疲労回復や肝臓の機能を高めるタウリンやグリコーゲンが多く含まれているので、おかずにもお酒のおつまみにもぴったりな食材です。牡蠣に含まれる亜鉛や鉄は、ビタミンCやクエン酸と一緒にとると吸収がアップするので、今回はビタミンCを多く含んだブロッコリーを組み合わせたレシピをご紹介します。

●牡蠣とブロッコリーの炒め物
【材料】(2人分)
・牡蠣(加熱用)・・・1パック(10粒位)
・ブロッコリー・・・1/3個
・長ねぎ・・・1/2本
・しょうゆ・・・小さじ2
・酒・・・小さじ2
・油・・・小さじ2
・バター・・・大さじ1(12ℊ)
・塩・こしょう・・・適宜
・小麦粉・・・適宜

【下処理】
前述の方法で牡蠣を洗い、水気をよくふき取ります。

【作り方】
1.長ねぎは1cm幅の斜め切り、ブロッコリーは小さめの小房に分け軽く下茹でします。下処理した牡蠣に小麦粉を薄くまぶします。
2.フライパンに油を熱し、ブロッコリーと長ねぎを強火でさっと炒めます。
3.油がまわったら、バター大さじ1/2と牡蠣を加え中火で炒めます。
4.牡蠣がふっくらしてから酒をまわしかけ、バターの残りを加えて混ぜ、最後にしょうゆをまわしかけます。
5.最後に塩・こしょうで味を調えます。

※下処理した牡蠣に小麦粉をまぶすことによって熱による縮みを抑え、牡蠣のうまみを閉じ込めます。小麦粉をつける際は、ビニール袋を使うと手が汚れずに綺麗に小麦粉をまぶせます。

【アレンジ】
ブロッコリーの代わりに小松菜を使っても美味しくいただけます。小松菜にも鉄分やビタミンCが多く含まれています。