
しいたけは風味が豊かでさまざまな料理に合わせやすいうえに、低エネルギーながら食物繊維を多く含むため、減量中や腸内環境を整えたい方にもおすすめの食材です。また、生しいたけだけでなく、うま味が凝縮した干ししいたけもあり、幅広い調理法で楽しめます。
ここでは、しいたけの栄養的な特長や保存のコツ、食事への取り入れ方をご紹介します。
しいたけの名前の由来
しいたけは、しいたけ科に属するキノコの一種で、日本をはじめ中国や韓国などのアジア諸国で栽培されています。名前の由来は、シイの木(椎の木)から生えることに由来し、その特有の香りと食感が特徴です。
しいたけの歴史
歴史は古く、アジアで原産され、中国の『王禎農書』(14世紀)には栽培法が記載されています。日本では鎌倉時代から文献に登場し、江戸時代には大分県の源兵衛という人が原木に「なた」で傷をつけ、自然にきのこの胞子がつくのを待つ、自然まかせて栽培する「なた目式」
(後に「原木栽培」と呼ばれる)という人工栽培法を始めました。この技術が全国に広まり、伊豆の石渡清助らによる技術改良を経て、明治時代には日本の重要な特産品へと発展しました。
その後、昭和期に「菌床栽培」が確立され、現在のしいたけ生産の大部分を占めるようになりました。
しいたけの種類
日本の食卓で親しまれているしいたけは、主に「菌床栽培」と「原木栽培」の2つの方法で生産されています。菌床栽培は、おがくずや米ぬかなどを固めた培地に菌を植え付けて育て
る方法で、安定した品質と通年出荷が可能です。
一方、原木栽培はクヌギやナラなどの原木に菌を打ち込んで自然の環境で育てる方法で、香りやうま味がより濃厚で風味豊かなのが特徴です。
また、しいたけには「生しいたけ」と「干ししいたけ」の2種類があります。これらは同じ食材でありながら、栄養価や風味に違いがあります。特に干ししいたけは、水分が抜けることで栄養素やうま味成分(グアニル酸など)が凝縮され、生しいたけとは異なる深い味わいを楽しむことができます。
干ししいたけは形状によって大きく2種類に分けられます。
・どんこ(冬茹)
かさが七分開きにならないうちに採取し肉厚で、表面に亀甲のようなひび割れがある高級品。
食感がしっかりしており、煮物などに使うと旨みがよく出ます。
・こうしん(香信)
かさが七分開きになってから採取し、肉が薄く開ききった形をしており、火の通りが早く扱いやすいのが特徴です。炒め物や炊き込みご飯など、幅広い料理に向いています。
どちらも同じ品種ですが、料理の種類や好みに応じて使い分けることで、より味わいを引き出すことができます。
栄養的特長
しいたけは栄養価が高い食材として広く知られており、毎日の食事に取り入れることで、さまざまな健康維持に役立つとされています。ビタミンD、食物繊維、葉酸をはじめ、エリタデニンなど特有の成分や、香り成分、うま味成分も豊富で、美味しく栄養がとれる食材の一つです。
低エネルギー
生しいたけ1個(10g)あたりのエネルギーは3kcalと非常に低エネルギーですが、食物繊維が豊富で噛み応えもあるため、少量でも満足感を得やすい食材です。また、焼き物・煮物・炒め物などさまざまな料理に使いやすく、バリエーション豊かに楽しめます。
食物繊維
食物繊維は人の消化酵素では消化できない食品成分で、腸内環境を整えて便通を促すほか、血糖値の上昇を緩やかにし、コレステロール値を下げる働きがあります。キノコ類のなかでもしいたけには多く含まれ、日常的に取り入れやすい点も魅力です。日本人の多くは食物繊維の摂取が不足しているため、意識して取り入れたい成分の一つです。
また、食物繊維では水に溶ける「水溶性食物繊維」と、水に溶けない「不溶性食物繊維」の2種類があり、特に水溶性食物繊維は、腸内の善玉菌のエサとなり、腸内環境の改善や血糖・脂質代謝のコントロールに役立ちます。しいたけは他のキノコよりも水溶性食物繊維が多いことも特長です。

ビタミンD
ビタミンDは健康な骨を維持するために欠かせない脂溶性のビタミンで、骨の成長促進以外に、血中カルシウム濃度の調整、免疫機能の向上効果や、精神疾患とも関連があるといわれています。
しいたけを含むキノコ類には「エルゴステロール」という成分が含まれ、このエルゴステロールは紫外線を浴びることでビタミンDに変化するため、生しいたけよりも干ししいたけの方がビタミンDを多く含みます。
実際に、干ししいたけは生しいたけの約3倍のビタミンD量があります。
なお、野菜や果物にはビタミンDはほとんど含まれないため、しいたけなどのキノコ類を毎日の食事に意識的に取り入れることが大切です。

葉酸
葉酸はDNAの合成を促進し、赤血球の生成や多くの生体機能に関わっているため、すべての人に重要な栄養素です。葉酸は水溶性のため、茹でると栄養素が水に流れ出てしまいます。栄養素を逃さずに摂取したい場合は、煮汁も調理に使用すると良いでしょう。
エリタデニン
エリタデニンはしいたけ特有の成分で、血流を整え、コレステロール値を下げる働きがある注目の成分です。エリタデニンは、キノコ類の中でもしいたけに多く含まれる成分で、マッシュルームやマツタケなどにはごくわずかしか含まれません。日常的に食べやすいキノコの中では、しいたけが唯一の供給源といえます。
この成分には
・血圧を正常に保つ作用
・血中コレステロール値を下げる作用
・血管の詰まりを予防する作用 などが期待されています。
エリタデニンは水に溶けやすいため、使うときは水洗いはせず、汚れは濡れタオルや指ではらうようにしましょう。また、熱に強く、加熱調理しても壊れにくいのも特徴です。
焼き物・煮物・揚げ物・電子レンジ調理などの加熱調理の他、スープや煮物に戻し汁ごと使うことで、無駄なく摂取できます。
グアニル酸
しいたけに多く含まれる「グアニル酸」は、昆布のグルタミン酸や、かつお節のイノシン酸と組み合わせることで“うま味の相乗効果”を生み出し、うま味の感じ方が約7倍に高まるといわれています。だしを上手に活用することで、塩分を控えてもおいしさをしっかり感じ
ることができ、減塩の工夫としてもおすすめです。
普段の料理に、しいたけ、昆布、かつお節を組み合わせて「だしのうま味」を活かして
みましょう。おいしく減塩できるだけでなく、体にもやさしい食卓づくりにつながります。
おすすめの保存方法

冷凍保存による効果
しいたけなどのキノコ類は、冷凍することで細胞が壊れ、旨味を作り出す酵素の動きが活性化します。そのため、調理時に風味や栄養をより効率よく取り入れることができます。冷
凍したまま使えるので、カットして1食分ずつ保存しておくと忙しいときでもすぐに料理に取り入れられて便利です。
天日干しによる効果
しいたけは、日光をあてることで栄養価と風味がともに高まります。
干ししいたけは、乾燥の過程で食物繊維やビタミンDの含有量が増加すると言われていますが、市販の干ししいたけの中には熱風乾燥で作られているものも多く、日光によるビタミンD生成の効果が十分に得られない場合があります。
一方で、生しいたけや市販の干ししいたけでも、調理前または保存前に数時間ほど天日干しすることで、ビタミンD量を大幅に増やすことが可能です。
さらに、天日干しによって香り成分のレンチオニンやうま味成分のグアニル酸も増加しやすくなり、風味やうま味もより豊かになります。栄養とおいしさを引き出す簡単な工夫として、ぜひ取り入れてみましょう。
おすすめの活用方法
調理法ごとの活用ポイント

油と一緒に調理する
ビタミンDは脂溶性のため、油を使った調理で吸収率が高まります。
炒め物など、少量の油で加熱する料理がおすすめです。
食材の相乗効果を利用する
しいたけは、鶏肉・豚肉・鮭・チーズ・ほうれん草など、さまざまな食材と相性が良いのも魅力です。イノシン酸が豊富な鶏肉や豚肉と合わせるとうま味が相乗効果で増し、しいたけに含まれるビタミンDはカルシウムの吸収を助けるため、乳製品や小魚と一緒に食べると効果的です。
また、バターやチーズ、油と一緒に摂ることで脂溶性ビタミンDの吸収が高まります。
さらに、醤油や味噌などのだしを活かす調味料とも相性がよく、和食の旨味を底上げしてくれます。干ししいたけの戻し汁は「天然のだし」として、味噌汁や煮物などに活用しましょう。
調理法による「食べ応え」の工夫
しいたけを丸ごと調理することで、弾力のある食感が楽しめ、満足感が得やすくなります。
そのまま丸ごとでソテーにしたり、煮物やお鍋の具としてもおすすめです。
しいたけの軸も活用
捨ててしまいがちな「しいたけの軸」には、うま味成分が豊富に含まれ、またコリコリとした食感も楽しめます。石づき(先端の硬い部分)は取り除いて使いましょう。
軸を使わずに余った際は冷凍保存しておくと、まとめてスープや炒め物などに活用でき便利です。また、干ししいたけの軸を醤油に漬けておくと、手軽な“しいたけだし醤油”を作ることができます。しいたけの風味が加わり、減塩にも繋がりやすくなります。
おすすめレシピ
うま味の豊富なしいたけは、シンプルな調理でもおいしさを十分に引き出せる食材です。
しいたけを丸ごと使い、ツナやお好みの具材をのせてトースターで焼くだけの簡単レシピを紹介します。おかずの一品やおつまみとしても活用でき、アレンジによって栄養バランスや味のバリエーションも広がります。
しいたけのチーズ焼き
【材料】2人分
・しいたけ 6個
・ツナ缶 1缶(60g)
・ミックスベジタブル 大さじ2
・スライスチーズ 1枚(またはピザ用チーズ30g程度)
・マヨネーズ 大さじ1
・塩 ひとつまみ
・コショウ 適量
【作り方】
1.しいたけは石づきを取り、軸はこまかく刻みます。かさは内側を上に向け、軽く塩をふっておきます。
2.ボウルに1で刻んだ軸、缶汁をよく切ったツナ、ミックスベジタブル、マヨネーズを入れて混ぜ、コショウで味を調えます。
3.2を1のかさの部分に詰め、上からチーズをのせます。
4.3.をトースターに並べて5〜7分ほど焼き、チーズに焼き色がついたら完成です。
※しいたけのサイズによって加熱時間が異なります
【アレンジ】
・ツナの代わりに、サバの水煮缶やゆで卵、ベーコンなどを使ってもおいしく仕上がります。
・ケチャップをかけると甘みが加わり、しいたけが苦手な方でも食べやすくなります。
・七味唐辛子や豆板醤を加えると辛みがアクセントになり、お酒のおつまみにもおすすめです。


